”正体不明のクソヤバさ” 炸裂。小林泰三 『玩具修理者』。

※この記事は以前のブログから改稿して転載してものです。

玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも・・・死んだネコだって。
壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬうちにどうにかしなければ。
第2回日本ホラー小説対象短編賞受賞作品。「玩具修理者」の他、「酔歩する男」収録。

日本ホラー小説対象短編賞受賞作品で、 小林泰三さんの代表作のひとつ『玩具修理者』。小林泰三色が大全開の、気味の悪いクリーチャが出てくるホラー作品です。

ですが、読んで最初の思ったのは、

手先が器用にも程がある。

これ。

『玩具修理者』は、何でもなおしちゃう敏腕修理屋さんのお話です。

とにかく何でも。まじすごい。

しかも仕事がちょう丁寧。見習いたいレベル。

情熱大陸から取材依頼が来てもなんらおかしくないスーパーテクに、主人公の「私」も驚きの連続です。

イェイ(・∀・) イェイ

ということで、表題作「玩具修理者」。

スプラッタなグロさと、ジャパニーズホラーの融合体のような、禍々しい悪夢的な物語。

スティーブン・キングの『ペットセメタリー』を読んだ時の、ザワザワする感覚を思い出しました。

『ペットセメタリー』は、なんらかの呪術的なサークルの中に死体を埋めると、摩訶不思議な力で蘇ってくるんだけど、原型はその人のままなのに、中身は

「なんか違うんじゃねえかコレ・・・」

というおそろしいお話です。映画にもなりました。

「日本的ホラー」と感じたのは、”玩具修理者”が畳の上でラジコンを解体したり、おもちゃを直したりするのが、一定の年齢以上の人には、子供の頃の原風景と重なる部分があるように思えたから。

行間から畳の湿った質感も伝わってきそうな・・・。

ふすまの向こうから登場する”玩具修理者”という存在自体の描写もエグい。「一体何がなんだかわからない」正体不明な怖さ。

ネタバレになっちゃうからあんまり書けないけれども、緻密な文章による生理的嫌悪感を引き出す演出が成されていて、こういう「異質な存在」が好きな人にはたまらないホラーです。

ちなみにあの漫画 『HUNTER×HUNTER』 にも、この小説がモトネタらしい「玩具修理者」という、外科医姿の念人形が登場します。

↑ こいつ。

でもね。

”玩具修理者”、そこまで丁寧に丁寧に解体して、それをまた復元できるものすごいスキルを持ってるのに、

仕上げが雑。

そう、思ったのは私だけではないと思います。
生命は簡単に操れない神秘的なモノ、ってことかな。

同時収録「酔歩する男」。

物語のキーマンとして「手児奈(てこな)」という名前の女性が出てきます。

私の母方の実家付近には「真間(まま)の手児奈」という伝説が実際にあり、個人的になんだかなじみ深い名前。

あ、真間とは土地の名前です。オカンのことじゃないよ。

奈良時代、真間に住んでいたという美しい娘・手児奈については、万葉集にも何首か歌が残されています。

” 我も見つ人にも告げむ勝鹿(葛飾)の真間の手兒名が奥津城ところ ” (山部宿禰赤人)

手児奈は、その美しさから複数の男性に言い寄られるのですが、「自分の体はひとつしかない」と嘆き、真間川に身を投げる・・・というもの。

この真間川沿いには「手児奈霊堂」という、手児奈を祀る霊堂があり、私も子供の頃何度か行ったことがあります。モテる女はつらいんだなあ・・・・と子供心に思ったものです。

で、「酔歩する男」。

好き嫌いが分かれるタイプのホラーだと思いますが、私は大好き  ☆+;。・゚・。;+;(・∀・);+;。・゚・。;+;

これもネタバレしやすいのであまり書けないのだけれども、物理学や量子論などの話がポンポン出てきます。「時間」や「意識」の定義って?「生から死へ向かう」という、全生物に等しく与えられている大前提が覆った時、人はどうなる?

読み進めていくと、自分を自分たらしめている軸がブレて、ずっとひどい車酔いをしているような、確かなものがない状態って、こんなに気持ち悪いんだ・・・という感じ。

生きること自体をひとつの「絶望」としてしまう、とても恐ろしい話。

ともあれ、

小林泰三さんの作品は、玩具修理者のように「正体不明のクソヤバい存在」がとっても魅力的ですよね!

『百舌鳥魔先生のアトリエ』 の百舌鳥魔先生もやばかった!
「もずませんせい」て名前もキュートだし、表紙もかわいくて、逆にヤバさ炸裂してる感がすごい好き。

イヤ~な存在のホラーを堪能したい方、小林泰三さんの作品をぜひぜひおすすめします!

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