※この記事の画像にはミイラが出演しています。
「世界から、43体が集結!」
国立科学博物館で、僕と握手!
みたいな(古いか)
ヒーロー物かマーベルの映画みたいなコピーが看板に書かれててフフッてなったけれど、まさにミイラ界のアベンジャーズが上野に大集結していました。
開催前から楽しみにしていたので、1回目は「どっか面白い所連れてけ」と頼まれていたアフリカ人の友人を「ミイラ展一緒に行くなら連れてってやる」と無理矢理拉致。1回目のインパクトが凄かったのと、混んでいてゆっくり観れなかったので、2回目はじっくり見るためにぼっちで平日午後に行きました。
ミイラ…「見たい」と「怖い」のせめぎあい。
私はホラー映画もグロ画像も苦手だし、なんなら遊園地のおばけ屋敷も入れません。怖いから。
でもミイラはなぜか観てしまう♡
日本で暮らしていると「死」を(「遺体」を)タブー視するというか、人の目に触れさせないので、医者とか葬儀社とかそういった職業に就いているケース以外、「死んだ肉体」を眼前にするのは身内の死の時くらいだと思います。
が、誰もがもれなく行き着く「死」という大きな扉のその向こう側に、世界中の先達、パイセン達が何を見出そうとしていたのか、ミイラアベンジャーズに考えさせられた2019年秋。
とにかく遺体を見るという恐怖より好奇心が勝つというか、文化的、宗教的、歴史的背景への探究心が勝るというか、ミイラには「なぜ?どうして?」の部分がものすごくたくさん詰まっていて、ああんぶっちゃけミイラLOVE
そんなわけでミイラ展のレポと感想です。
ここからはミイラのパイセン達がご出演されるので、一応閲覧注意ですよ。
第1章 南北アメリカのミイラパイセン達。
展示場の一番最初のエリアは「南北アメリカのミイラ」。メインの出身地はペルーかチリのアベンジャーズが出迎えてくれます。
「チンチョーロ文化のミイラ」
オープニングを飾るのは、紀元前3200年頃の最古のミイラ。5000年も前のパイセンが時を超え、私達と同じ空気を共に存在しているってすごくない?展示場に入ってすぐのところに横たわっていますが、パイセンにはなにやらかっこいい3D映像処理がされているのと、開幕一発目のインパクトで、ここに人が詰まりがち。順路ごとに観なくても大丈夫なので、先に奥に行くとスムーズに見れます。
「人工変形頭蓋と腐敗防止処置の痕跡がある子どものミイラ」
ちっさい子がちょこんとガラスケースの中に座っています。頭のかたちが明らかに普通じゃありません。人為的に頭蓋骨を変形させる風習は世界のいたるところで記録されていますが、この子もごく幼い時期に頭を平たく加工された模様。痛くなかったのかな。
「チャチャポヤのミイラ包み」
「かわいい顔が描かれたナップサック」に見えるミイラ包たち。もちろん中にパイセン達が入っていて、その内部のスキャン写真も横に展示されています。
今回のミイラ展では、CTスキャンによって解明した新しい発見も一緒に説明されているので、周囲の説明や映像も見逃さず観るのをおすすめします。
チャチャポヤ、というかわいい名前はインカ文化のこと。刺繍された顔も包み方や模様もかわいいし、人が入っていると思えないくらい小さくてかわいい・・・と思っていると、オオトリに中からパイセンがひょっこりはんしている個体が控えているので油断は禁物。

第2章 古代エジプトのミイラパイセン達。
来ました、エジプト。
エジプトと言えばミイラ、ミイラと言えばエジプト。
数千年の時を経てもなおミイラ界に君臨するファラオ達は、あらゆる人の人生における「ミイラ導入編」に存在しているでしょう。豪華絢爛な装飾と高度な文明の逸話は、遠い時間を隔てた私たちを魅了し続けています。ゲームでもエジプトぽいところに行くと十中八九ミイラの敵が出てくるし。
アフリカ人の友人も「ミイラといえばやっぱりエジプトでしょ。ほら、エジプトだけで1コーナーあるし♪(他の国は南北アメリカ、オセアニア、などのエリアで1コーナー)」と、妙に誇らしげにペラつきはじめました。
「ツタンカーメン」
ミイラ界のスーパーエースの登場です。本体はエジプトの王家の谷に安置され、上野で対面できるのは精巧なレプリカですが、ツタンカーメン王と言えば、ドラクエで言えば勇者、スラムダンクで言えば流川。そんなポジションではないでしょうか。ル・カ・ワ!ル・カ・ワ!とテンションもぶち上がります。

「中王国時代の子供のミイラ」
(^u^)というかわいいお顔をした子供。今回のCT検査で、腕に明らかに大人の骨が使用されていることがわかったとか。
「腕を交差している男性のミイラ」
映像で古代エジプトにおけるミイラの製作工程が説明されていますが、脇腹をパカーンとあけて内臓を取り出し、鼻の穴から脳を掻き出す、という処置がよくわかるナイスボディをしています。股間にはリネンで作られた立派な男性器も装着&展示されており、カップルで来ている客がイヤーンと恥じらう横で、わたくしガン見していました。なかなか立派。
「ネコのミイラ」
スクッと立って小首を傾げているようなネコのミイラ。愛らしい。今までのインパク値高めなパイセン達に少々疲れた目を癒やしてくれます。他にも鳥のミイラも展示されています。これを書いている数時間前に、エジプトで初めてライオンのミイラが発見されたというニュースがありました。ミイラになっても動物は癒やし。
閑話休題。〜ミイラデビューへの道〜
ひとことで「ミイラ」と言っても、一人前のミイラとして華々しく科博に展示されるまでには、それぞれに積んできたストーリーとキャリアがあります。
大きく分けて↓な感じ。
1,選ばれし者パターン
死後、誰かの手によって加工され、ミイラとして第2形態へ進化。
2,原宿でスカウトパターン
死後、偶然の自然条件が重なり、思いがけずラッキーミイラ。
3,巨人の星パターン
生前からパねえ情熱と気合とド根性で自らをミイラと化し、爆誕。
第1章と第2章のパイセン達は、ケース「1」でした。死後、丁寧にミイラにされ、埋葬された選ばれし者たち。第3章からは「2」のパイセン達が登場します。
第3章 ヨーロッパのミイラパイセン達。
原宿を歩いていたらスカウトされ、あれよあれよとトップモデルへ。そんな、個人の予定とは想定外に、思いがけずミイラデビューした人々。主に湿地遺体です。展示個体数は少ないものの、際立つ個性がすごい。
「ウェーリンゲメン」
ミイラ展のポスターに使われている、ペアで小躍りしているような楽しげなシルエットが彼ら。湿地帯で皮だけになった2人のミイラで、顔の骨もないので、パっと見、全身タイツというか「え、人?」という不思議な感覚。
「イデガール」
絞殺された紐が首に残る生々しい頭部のレプリカと、生前の顔を復元した複顔像。死亡当時16歳前後だったらしい湿地遺体。

「アンナの頭骨」
シャレオツな花柄と”アンナ”という彼女の名前がペイントされた頭蓋骨。絵を施しているシーンを想像すると、常軌を逸してるだろと思いますが、繊細なで華やかな絵柄に見入ってしまいます。

第4章 オセアニアと東アジアのミイラパイセン達。
展示コーナーのトリを飾るのは、我が日本を含むオセアニア&東アジア地域です。最初はパンチのきいたビジュアルの、パプアニューギニア勢。
「肖像頭蓋骨」
1800〜1900年頃のもの。首チョンパした頭蓋骨に粘土をペチペチして、お化粧を施し、生前の顔に似せて作られた顔たちがズラリと並んでいます。入れ墨も多種多様で、同じ顔は1つもありません。映像で流れている、ナショナル・ジオグラフィックが特集した「アンガ族によるつい最近のミイラ作りのムービー」も必見。
最後に控える我らが日本のミイラは4体。
気候的にミイラには適していないものの、「ケース2 スカウトパターン」がこれまでに何体か発見されているとのこと。余談ですが、ミイラ展のチケットで入れる国立科学博物館の常設展「日本館」に、江戸時代の女性のミイラが展示されているので、そちらにも会いに行くといいと思う。発見された時の映像も観れます。ちなみに南極物語のジロ、忠犬ハチ公も剥製になり、生前の姿で展示されています。
そしてとうとう「ケース3 巨人の星パターン」の偉大なる姿が登場します。
「江戸時代の兄弟ミイラ」
兄弟で仲良くミイラ化した兄と弟のミイラ。兄は柔和、弟は眉毛が濃いキリリ顔。
次の学者さんのミイラもそうだけど、今までのパイセン達は横たわってる姿だったり、1〜2回りくらい体が小さい(ミイラ化によるものか、当時の身長が低いのか、どちらかは謎だけど)から、「ああ、ミイラだな」「昔の人って体が小さかったんだな」という当たり前の先入観が土台にある上で見ていた、という事に、ここで初めて気付きました。
兄弟並んで正座で鎮座する姿は、死という境界線の向こうにいる他のミイラ達の姿よりも、もっとこちら側にズズッと近い、妙なリアリティと迫力ががあります。
「本草学者のミイラ」
文化や宗教的背景を動機にせず、自らをミイラ化するという壮大な人体実験”ミイラチャレンジ”にトライした江戸時代の学者のミイラ。「しばらく経ったら掘り起こしてみてね」と頼み、死後、見事にミイラ化。その手法は伝えられていなかったものの、CT検査で大量の柿の種(せんべいとピーナツのアレじゃなくて、果物のほう)を食べて、自らに防腐加工を施したとのこと。
柿の種の成分で肌が赤く、うつむいた正座で数珠を握る等身大の「人」の姿には、ビートたけしをもってして「震えが来る」と言わしめたすさまじい「圧」があります。
本人は命をかけた実験が願ったり叶ったりで、今頃「やりー!大☆成☆功!テレレッテッテッテー(SE)!」とガッツポーズ連打してそう。
「即身仏 弘智法印 宥貞(こうちほういん ゆいてい)」
即身仏とは、壮絶な修行を続け、生きながら土中に入り、死後ミイラになったお坊様。だいぶ昔から即身仏の存在は知っていて、写真などで見ると「ちょっと怖いな…」と思っていました。
実際に目の前で見るのは初めてだったのだけれど、法衣を着て鎮座する姿に神々しさと、達観した優しい眼差しを感じ、思わず手を合わせました。怖いなんて思っててすみませんでした。宥貞様は真言宗の高僧で、92歳で入定(永遠の瞑想に入る=入滅する)されたそうですが、CTスキャンの結果、背中に大きな痛みを抱えながら大変な修行を行い、即身仏になったことがわかった、という映像も必見。「ゆいていさま…」と呟いてしまうこと間違いなし。
ミイラを見るたびオーウとかアーオとか言っていた友人も、宥貞様の前では沈黙し、手を合わせていてかわいかった。外に出た後、「日本の学者さんとハイプリーストのミイラすごいやばいすごい」としきりに言っていたので、「日本人なめんじゃねえよ、何やらせてもハンパねんだよ」と私も自分の手柄のように誇っておきました。
限定グッズ売り場も漏れなくやばい。
宥貞様が「特別展ミイラ」の最後の展示ですが、グッズ売り場に続く第2会場に、伝インカ帝国のミイラ、メキシコのミイラ、そして南米の干し首が展示されています。
世界各国のパイセン達の姿を見て、埋葬した人たちがミイラに託した想い、死した故人の想い、生とは死とは、様々な考えがめぐらせる貴重な機会だった…という感慨にふけった直後、眼前に広がるのは、グッズ売り場でコミカルなアイテムに変身したパイセン達の姿。
特にチャチャポヤのミイラ包なんて、ただでさえオリジナルもかわいいものだからモフモフのでかい枕にされたり、意味不明な指サックにされたり、ひょっこりはんパイセンはガチャガチャのフィギュアとなり、この展示最大のかわいさを誇るネコのミイラのフィギュアと肩を並べたりしています。どさくさに紛れてミイラと関係ないエジプトの小物とか売ってたりする。
ギャップがすごいので、ぜひグッズ売り場も一通り目を通すことをおすすめします。
ミイラ展、行くべし。開催概要はこちら
・特別展 ミイラ~「永遠の命」を求めて~
・開催場所 国立科学博物館 〒110-8718 東京都台東区上野公園7−20
・会期 2019/11/2(土)〜2020/2/24(月)
・開館時間 9:00〜17:00(金・土は20:00)
・休館日 月曜(月が祝日の場合は火)&2019/12/28〜2020/1/1
※2020/2/17(月)は開館 ※入場は各閉館時刻の30分前まで
・入館料 一般・大学生1700円、小・中・高校生600円
※同日に限り常設展も観覧可能
・公式ホームページ